店舗出店の流れ|初めてでも迷わない、準備から開業までの9ステップ

結論

店舗の出店は、「何を、誰に売るか」を決めるところから始めます。そこから資金計画、エリア、物件、契約、内装工事、手続き、開業準備と進み、全体でおおむね6か月〜1年かかります。

失敗を防ぐうえで大切なのは、物件より先にエリア、契約より先に資金の見通し、工事より先に保健所・消防への相談という3つの順番を守ることです。

「お店を出したい」と思ったとき、多くの方が最初にするのは、不動産ポータルサイトで物件を眺めることです。気持ちはよく分かります。物件が見えると、出店が一気に現実味を帯びるからです。

ただ、出店準備にはやる順番を間違えると、あとから取り返せなくなる工程がいくつもあります。家賃は契約した日から発生しますし、保健所の基準に合わない工事はやり直しになります。

この記事では、初めて店舗を出す方に向けて、準備から開業までを9つのステップに分けて整理します。業種は飲食、サロン、物販のどれでも当てはまるように書いています。

店舗を出すまでに、どれくらいの期間がかかるのか?

目安は6か月〜1年です。物件がすぐに見つかり、内装工事が小規模で済めば半年を切ることもありますが、希望するエリアでなかなか物件が出なければ1年を超えることも珍しくありません。

各ステップにかかる期間の目安は、次のとおりです。いくつかの工程は並行して進みます。

ステップ 期間の目安 ポイント
1. 何を・誰に売るかを決める 1〜2か月 すべての判断の基準になる
2. 資金計画を立てる 1〜2か月 融資は申込から実行まで3週間〜1か月程度
3. 出店エリアを決める 1か月前後 物件を見る前に済ませる
4. 物件を探す・見る 1〜3か月 エリアによってはそれ以上
5. 物件を分析し、申し込む 2週間前後 貸主側の入居審査がある
6. 賃貸借契約を結ぶ ― 契約開始日から賃料が発生
7. 内装の設計・工事 1〜3か月 飲食店は着工前に保健所へ相談
8. 許認可・届出 工事と並行 業種ごとに必要な手続きが違う
9. 採用・仕入れ・集客の準備 1〜2か月(並行) オープン前から告知を始める

※業種・店舗の規模・物件の状態によって大きく変わります。あくまで目安です。

出店準備の9ステップとは?

ここからは、ステップごとに「何をするのか」「どこでつまずきやすいのか」を見ていきます。

ステップ1:何を、誰に売るのかを決める

最初にやるのは、商品の特性と、それを買ってくれるお客様の像(ペルソナ)を言葉にすることです。年齢層、暮らし方、来店する時間帯、客単価、1回の滞在時間。これが決まっていないと、このあとのエリアも物件も、判断の基準がありません。

頭の中にあるだけでは不十分で、書き出して、人に説明できる状態にしておくことをおすすめします。融資の面談でも、物件の入居審査でも、必ず聞かれるからです。

ステップ2:資金計画を立てる

日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」によると、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。500万円未満で開業した人も4割(41.8%)います。平均が中央値を大きく上回っているのは、一部の高額な開業が平均を押し上げているためで、実感に近いのは中央値のほうです。

資金計画で見落としやすいのが、物件の保証金です。店舗の保証金は、飲食店で賃料の10〜12か月分、美容室・サロンやオフィスで6〜10か月分が目安とされています。月額賃料20万円の物件で保証金が10か月分なら、それだけで200万円。中央値600万円の3分の1にあたります。

月額賃料 保証金 6か月分 保証金 10か月分
15万円 90万円 150万円
20万円 120万円 200万円
30万円 180万円 300万円

融資を受ける場合、日本政策金融公庫では申込から融資の実行まで3週間〜1か月程度が目安とされています。物件の契約を急ぐ前に、資金の見通しを立てておくことが大切です。

ステップ3:出店エリアを決める

多くの出店準備の解説では、ステップ1のすぐあとに「物件探し」が来ます。しかし、その間に「どのエリアに出すか」を決める工程を独立して置くべきだと考えています。

物件から探し始めると、目の前の物件が良いかどうかしか判断できません。先にエリアを決めておけば、「このエリアのこの条件なら借りる」という基準を持って物件を見ることができます。エリアは、ステップ1で決めたペルソナが暮らし、働き、通る場所から逆算して選びます。

駅名から探し始めることの問題は「出店エリアの選び方|「◯◯駅で探す」と失敗する7つの理由」で、神奈川県内ならではの注意点は「神奈川で出店するとき、都内と同じ感覚で探すと失敗する3つの理由」で詳しく解説しています。

ステップ4:物件を探す・見る

エリアが決まったら、そのエリアで物件を探します。不動産ポータルサイトのほか、店舗物件を扱う仲介会社に希望条件を伝えておくと、公開前の物件情報を受け取れることがあります。

このとき、自分の中に判断の基準があるかどうかで、結果が変わります。以前ご相談いただいた方から伺った話です。仲介会社に「◯◯駅の周辺で店舗物件を探してほしい」と依頼したところ、その駅の周辺には物件がなく、代わりに、想定しているお客様像にはまったく合わない別の駅の物件を強く勧められたそうです。

仲介会社の報酬は、契約が成立したときに発生する仕組みです。もちろんすべての会社がそうではありませんが、なかには契約を急ぐあまり、こうした提案になってしまう会社もあります。勧められた物件が自分の事業に合っているかを判断できるのは、最終的には自分だけです。ステップ1とステップ3で決めた基準は、こういう場面で自分を守ってくれます。

内見で気をつけたいのは、物件を見ると「ここでやりたい」という気持ちが基準より先に立つことです。特に、なかなか物件が出ずに待たされたあとは、やっと出た物件が実際以上によく見えます。ステップ1とステップ3で決めた基準に照らして、合っているかどうかを確認してください。

ステップ5:物件を分析し、申し込む

気に入った物件が見つかったら、その物件で事業が成り立つかを数字で確認します。賃料が売上に対して重すぎないか、想定する客数が本当にその場所で見込めるか。飲食店であれば、家賃は売上の10〜15%以内に収めるのが一つの目安とされています。

条件が合えば、入居の申し込みをします。店舗物件では貸主側の入居審査があり、事業計画や資金の裏付けを求められるのが一般的です。個人事業主や新規開業の場合は、ステップ1とステップ2で整理した内容がそのまま審査の材料になります。

ステップ6:賃貸借契約を結ぶ

契約で必ず意識しておきたいのが、賃料は契約開始日から発生するという点です。内装工事の期間中も家賃はかかります。月額賃料20万円の物件で内装工事に2か月かかれば、開業前に40万円の家賃を払うことになります。貸主によっては、工事期間の賃料を免除する「フリーレント」を設けている場合もあるので、確認しておきましょう。

もうひとつは、契約書の特約です。空調設備の修理費を借主負担とする特約など、あとから大きな費用につながる取り決めが入っていることがあります。実際にあった例は「出店コンサルティングとは?依頼できること・できないことを正直に整理しました」で紹介しています。

ステップ7:内装の設計・工事

飲食店の場合、工事を始める前に、店舗の平面図を持って保健所へ事前相談に行きます。横浜市でも、施設工事の着工前に図面を持参して相談するよう案内されています。シンクの数や手洗い設備など、営業許可には施設の基準があり、工事後に基準を満たしていないと分かると、やり直しになるからです。

消防も同じです。内装工事の内容によっては、消防署への届出が必要になり、工事が終わったあとに消防の検査があります。

実際にあった例です。消防に確認を取らないまま内装工事を進めたところ、工事完了後の消防検査で指摘を受け、是正工事をすることになりました。追加の費用がかかったうえに、オープンも後ろ倒しになっています。その間も、家賃は発生し続けます。

消防設備の要件は、店舗の広さや用途、ビル全体の状況によって変わります。図面ができた段階で、内装業者と一緒に管轄の消防署へ相談しておくことをおすすめします。

ステップ8:許認可・届出を済ませる

必要な手続きは業種によって違います。詳しくは次の章で一覧にしています。飲食店営業許可のように、許可が下りるまで営業できないものもあるため、開業日から逆算して進めます。

ステップ9:採用・仕入れ・集客の準備をして開業する

スタッフの採用、仕入れ先との契約、備品の手配、そして集客の準備です。見落としやすいのは集客で、開業日に初めて告知を始めても、お客様は来てくれません。SNSやウェブサイト、店頭での告知は、内装工事の期間中から始めておくのが理想です。

立地と集客は本来つながっています。ステップ1で決めたペルソナに届く方法で告知できているかを、最後にもう一度確認してください。

ステップ3「エリアを決める」をお手伝いします

プラスバリューは、商品の特性とターゲット顧客のヒアリングから、出店すべきエリアをご提案しています。ご提案するエリアは、いずれも実際に現地を歩いて調査したエリアです。候補物件の事業リスク分析や、賃貸条件に関する助言までご相談いただけます。

サービスの内容はサービス詳細、費用は料金プランをご覧ください。

業種によって、必要な手続きはどう違うのか?

代表的な業種の手続きを整理しました。飲食店と美容室は、保健所の手続きが済まないと営業を始められません。

業種 主な手続き(提出先) タイミング
飲食店 飲食店営業許可(保健所) 着工前に事前相談、営業開始の15日前までに申請(横浜市)
飲食店 食品衛生責任者の設置 許可申請時。不在の場合は3か月以内に選任(横浜市)
美容室 美容所開設届(保健所) 開設前に届け出て、施設の検査を受ける
物販 原則として許可は不要 中古品は古物商許可、酒類は販売業免許などが必要
共通 防火対象物使用開始届(消防署) 使用開始の7日前まで
共通 開業届・青色申告承認申請書(税務署) 青色申告は開業日から2か月以内

横浜市の場合、飲食店営業許可は施設検査から約2週間後に許可証が交付されます。開業日から逆算すると、工事の完了は少なくとも開業の1か月前には済ませておきたいところです。また、収容人員30人以上の飲食店などでは、防火管理者の選任も必要になります。

開業届については、2026年1月1日以降に開業した場合、提出期限は「開業した年の確定申告期限まで」に改正されています。以前の「開業から1か月以内」から延びましたが、青色申告承認申請書の期限(原則として開業日から2か月以内)は変わっていません。青色申告をするなら、開業届と同時に出しておくのが確実です。

※手続きの要件や期限は自治体・業態によって異なります。必ず管轄の保健所・消防署・税務署にご確認ください。

順番を間違えると、何が起きるのか?

冒頭で挙げた3つの順番を、もう一度整理します。

1. 物件より先にエリアを決める

物件から探すと、その物件が良いかどうかしか判断できなくなります。エリアが決まっていれば、物件を比べる基準があります。

2. 契約より先に資金の見通しを立てる

契約後に融資が思うように下りなければ、家賃だけが発生し続けます。保証金の額も含めて、資金計画を先に固めておきます。

3. 工事より先に保健所・消防に相談する

基準に合わない工事はやり直しになり、費用も開業日も後ろにずれます。その間も家賃はかかります。

3つに共通するのは、後ろの工程ほど、やり直しに時間とお金がかかるということです。前の工程で決めるべきことを決めておくほど、あとの工程は迷わず進められます。

まとめ:出店準備は「前の工程」で決まる

この記事の内容を整理します。

  • 出店準備は「何を、誰に売るか」から始める。全体で6か月〜1年が目安
  • 開業費用は平均975万円・中央値600万円(日本政策金融公庫 2025年度調査)
  • 保証金は飲食店で賃料の10〜12か月分が目安。資金計画に必ず入れる
  • 物件探しの前に、出店エリアを決める工程を独立して置く
  • 家賃は契約開始日から発生する。工事期間の家賃も計画に入れる
  • 飲食店は着工前に保健所へ事前相談。営業許可は営業開始の15日前までに申請(横浜市)
  • 開業届は2026年から確定申告期限までに。ただし青色申告の申請は開業日から2か月以内

9つのステップのうち、プラスバリューがお手伝いしているのはステップ3の「エリアを決める」を中心に、ステップ5の物件分析とステップ6の契約条件の確認までです。まだ物件を見ていない段階でのご相談ほど、選べる選択肢は多くなります。ご相談はお問い合わせフォームから承っています。

よくある質問

Q1. 出店準備は、開業の何か月前から始めればいいですか?

6か月〜1年前が目安です。いちばん期間が読めないのは物件探しで、希望するエリアでなかなか物件が出ないこともあります。何を誰に売るか、資金はいくらか、どのエリアに出すかまでは、物件が出る前に決めておくことをおすすめします。

Q2. 物件の契約と融資の申し込みは、どちらが先ですか?

一般的には、物件の目処が立った段階で融資を申し込み、融資の見通しを確認してから本契約に進む流れが安全です。先に契約してしまうと、融資が思うように下りなかった場合でも家賃は発生します。金融機関によって求められる書類が違うため、事前に確認しておきましょう。

Q3. 開業届は、いつまでに出せばいいですか?

2026年1月1日以降に開業した場合、提出期限は開業した年の確定申告期限までです。ただし、青色申告承認申請書は原則として開業日から2か月以内に提出する必要があるため、青色申告をする場合は開業届と同時に出しておくのが確実です。

Q4. エリアがまだ決まっていない段階でも相談できますか?

はい、その段階でのご相談がいちばん多く、選択肢も広く取れます。「何を、誰に売りたいのか」を伺うところから始めて、出店に向いたエリアをご提案します。すでに気になる物件がある場合は、その物件の事業リスクを分析する形でもお手伝いできます。

この記事を書いた人

藤本 千尋

プラスバリュー株式会社 代表取締役社長

慶應義塾大学卒業。在学中に経験したマルタ島とブリスベンへの留学を活かして、中東系航空会社に入社し、現地に移住。ファーストクラス専任客室乗務員として約6年間勤務していました。多国籍のクルーと生活も仕事もともにするなかで、最優秀客室乗務員賞も受賞しました。

帰国後に選んだのは、全くの別業界である不動産業界。日総ビルディング株式会社(現・Space Direction株式会社)に入社し、事業用物件のリーシング営業として多くの物件を満室稼働に導きました。貸主側の立場で賃料の改定や物件の企画にも携わり、賃料や契約条件がどのような理屈で決まるのかを、貸す側の内側から見てきました。

現在は横浜市西区を拠点に、東京・神奈川エリアで店舗・オフィスの出店コンサルティングを行っています。商品特性とターゲット顧客のヒアリングから始めるエリア提案が中心。出店エリアの選定、事業リスクを考慮した物件分析、賃貸条件に関する助言まで伴走します。ご提案するエリアは、いずれも実際に現地を歩いて調査したエリアです。コンセプトは「あなたのための店舗開発部」。物件を探す前の「どこに出すべきか」から支えます。(物件の紹介・仲介は提携不動産仲介業者が実施します)

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