結論
神奈川県で店舗を出すとき、東京23区と同じ「駅から探す」やり方は通用しません。神奈川は東京都とほぼ同じ面積に、駅が半分以下しかないからです。
その結果、①「隣の駅で」という代替が効かない、②駅前を離れると移動手段が車に変わる、③坂と地形が来店を左右する、という3つの違いが生まれます。神奈川では「駅」ではなく「商圏」で考える必要があります。この記事では、その違いと具体的な探し方を解説します。
出店の相談を受けていて、都内でお店を持った経験のある方や、都内在住の方によく起きることがあります。東京で通用したやり方をそのまま神奈川に持ち込んで、途中で止まってしまうケースです。
やり方が間違っているわけではありません。前提となる地理の条件が違うのです。まずはその前提から確認していきます。
なお、そもそも「駅から探す」という進め方自体にどんな問題があるのかは、「駅で探すと出店が失敗する理由」で7つの理由に分けて解説しています。あわせてお読みください。
なぜ、都内のやり方が神奈川で通じないのか?
数字で見ると、違いははっきりしています。
| 東京都 | 神奈川県 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 面積 | 約2,194km² | 約2,417km² | 神奈川のほうが広い |
| 鉄道駅数 | 898駅 | 416駅 | 神奈川は半分以下 |
| 1駅あたりの面積 | 約2.4km² | 約5.8km² | 神奈川は約2.4倍 |
※ 駅数は国土交通省「鉄道統計年報」(2024年)、面積は国土地理院の公表値をもとに算出。1駅あたりの面積は面積÷駅数の単純計算です。
面積はほぼ同じ、むしろ神奈川のほうがわずかに広いにもかかわらず、駅の数は半分以下です。単純計算で、1つの駅がカバーする面積は東京の約2.4倍になります。
もちろん県内でも差があります。横浜駅や川崎駅の周辺は都内と変わらない密度がありますが、そこを離れると一気に間隔が空きます。県央、県西、三浦半島に行けばその傾向はさらに強まります。
この一点から、出店の探し方に関わる3つの違いが生まれます。
違い1:1つの駅が商圏を単独で抱えているため、「隣の駅で」が効かない
東京23区であれば、1つの商圏の中に複数の路線・複数の駅が重なっていることは珍しくありません。ある駅で条件に合う物件が出なくても、徒歩圏内の別の駅で探し直せば、ほぼ同じ客層にアプローチできます。
神奈川では、これが成り立ちません。駅と駅が離れているため、1つの駅がその周辺の商圏をほぼ単独で抱えています。隣の駅は、もはや別の商圏です。客層も、通行量も、賃料相場も変わります。
分かりやすい例が戸塚駅と東戸塚駅です。隣同士の駅で、しかも駅名に「東戸塚」とあるので、土地勘がないと「戸塚のすぐ東側」という印象を受けます。ところが実際にこの2駅の間を歩いてみたところ、1時間ちょっとかかりました。
徒歩圏という言葉でつながる距離ではありません。つまりこの2つは、隣り合っていながら完全に別の商圏です。戸塚で物件が出ないから東戸塚で、という探し方は成り立ちません。客層も、通行量も、賃料相場も別物として調べ直す必要があります。
駅名が似ている、路線図で隣にある。この2つは、商圏が近いことをまったく保証しません。
つまり、駅を1つに固定して物件を探すと、候補が数件どころか、本当にゼロになることがあります。そして待っている間も準備資金は減り続け、最終的に「半年待ってやっと出た1件」を、条件が悪くても契約してしまう。これが神奈川で最も起きやすい失敗の形です。
では、どう考えればよいのか
答えは、駅ではなく商圏で考えることです。ここで言う商圏とは、「あなたの顧客が生活の中で通る範囲」のことで、駅前だけを指すものではありません。
神奈川で候補になる立地タイプには、たとえば次のようなものがあります。
- 駅前・駅近(通行量は多いが賃料も高い)
- 駅から続く商店街や、その裏通り
- 住宅地の中の生活動線上(スーパーや学校、公園への通り道)
- 幹線道路沿いのロードサイド(車での来店が前提)
- バス路線の結節点や、バス停周辺
- 大型商業施設の周辺(施設の集客に相乗りする立地)
駅を固定すると、このうち最初の1つしか候補に残りません。駅前がだめなら諦めるのではなく、同じ商圏の中で別の立地タイプを検討する。神奈川ではこの発想がないと、そもそも選べる物件がありません。
違い2:駅前を離れると、来店の手段が車に変わる
横浜市や川崎市の中心部を離れると、日常の買い物や外食で車を使う比率が上がります。県央や県西に行けば、その傾向はさらに強くなります。都内のように「どこへ行くにも電車」という前提は成り立ちません。
車で来る顧客にとって、駅からの距離はほとんど意味を持ちません。「駅徒歩◯分」という条件で物件を絞っていると、車で来る顧客に効く条件がまるごと検討から抜け落ちます。
駅前立地とロードサイド立地では、見るべき項目そのものが違います。
| 見るべき項目 | 駅前・駅近の立地 | ロードサイド・郊外の立地 |
|---|---|---|
| 主な来店手段 | 徒歩・電車 | 車・自転車 |
| 最重要の条件 | 駅からの動線上にあるか | 駐車場があるか、何台停められるか |
| 道路との関係 | 歩道の幅、人の流れと速度 | 右折で入れるか、車の走行速度 |
| 看板の考え方 | 歩行者の目線の高さに出す | 走行中に認識できる大きさ・位置 |
| 商圏の広さ | 半径数百メートル | 車で10〜15分の範囲 |
| 賃料の考え方 | 坪単価が高く、面積は絞る | 坪単価は下がるが駐車場の面積が必要 |
表の右側の条件は、不動産のポータルサイトの検索条件には出てきません。「駅徒歩5分以内」は検索できても、「右折で入れる」は検索できないからです。だからこそ、現地で確認するしかありません。
とくに見落とされやすいのが右折進入です。中央分離帯がある道路や、交通量が多く右折が難しい道路では、反対車線から来る顧客は実質的に商圏から外れます。地図の上では同じ「幹線道路沿い」でも、売上は大きく変わります。
違い3:坂と地形が、来店するかどうかを決める
横浜市は丘陵地が多く、坂の多い街です。鎌倉市や逗子市、横須賀市も同様で、平坦な土地のほうがむしろ少ないエリアもあります。
やっかいなのは、同じ駅でも出口ひとつで条件が変わることです。桜木町駅がその典型です。
東口側のみなとみらい方面は平坦で、動く歩道まで整備されています。一方で西口側は紅葉坂や野毛山があり、坂が多い。しかもかなりの急坂で、実際に歩くと息が切れるほどです。
地図の上では、どちらも「桜木町駅から徒歩◯分」と表示されます。しかし東口の徒歩10分と、西口の坂を上る徒歩10分では、来店してもらえる確率がまったく違います。同じ駅名、同じ徒歩分数でも、別の立地だと考えたほうがよいと思います。
ここで効いてくるのが、不動産広告の「徒歩◯分」は坂を考慮していないという点です。徒歩分数は「不動産の表示に関する公正競争規約」により道路距離80mを1分として算出され、信号待ちの時間も坂の勾配も計算に入りません。
つまり、同じ「徒歩7分」でも、平坦な道を7分歩くのと、坂を上って7分歩くのとでは、来店してもらえる確率がまったく違います。とくに次のような場合、坂の影響は無視できません。
- 高齢の顧客層が中心の業態
- 荷物を持って帰ることになる物販や食品販売
- ベビーカーや小さな子ども連れの来店が多い業態
- 雨の日の来店が売上を左右する業態
さらに、坂は「上りか下りか」で意味が変わります。駅から店へ向かうときが下りなら来店のハードルは下がりますが、帰りは上りになります。買い物をして荷物が増えた状態で坂を上ることになるなら、リピートは期待しにくくなります。
地図上の距離や徒歩分数だけを見ていると、この差はまったく見えません。
では、神奈川ではどう探せばいいのか?
ここまでの3つの違いを踏まえると、進め方は次のようになります。
1. 駅ではなく、顧客の生活動線から考える
あなたの顧客が、平日と休日にそれぞれどこを通り、どこに立ち寄るのか。通勤で駅を使うのか、車で移動するのか。その動線の上にある場所を候補にします。出発点は駅名ではなく、顧客の一日です。
2. 来店手段を先に決める
徒歩・電車で来てもらうのか、車で来てもらうのか。ここを決めないまま物件を見始めると、判断基準が定まりません。車前提なら駐車場の確保が最優先条件になり、探すべき物件の種類そのものが変わります。
3. 候補は必ず複数の立地タイプで持つ
駅前だけ、ロードサイドだけ、と絞り込まないことです。神奈川では物件の絶対数が限られるため、候補の幅がそのまま選択肢の数になり、選択肢の数がそのまま交渉力になります。
4. 最後は必ず、自分の足で歩く
時間帯を変えて、平日と休日の両方で。坂を実際に上ってみて、車で実際に入ってみる。ここを省くと、これまで挙げてきた差はすべて見えないままになります。
ネットやAIで調べるだけでは、なぜ足りないのか?
統計データも、口コミも、AIによる要約も、いまは誰でも数分で手に入ります。だからこそ、そこで得られる情報では差がつきません。同じことを調べれば、競合も同じ答えにたどり着きます。
もう一つ重要なのは、ネットやAIから得られるのは「すでに誰かが言葉にして、記録に残した情報」だけだという点です。ところが、ここまで挙げてきた要素のほとんどは、まだ誰も言葉にしていません。
- その坂が、実際に上ってみてどれくらいきついか
- 右折でその区画に入れるか。入れるとして、待たされるか
- 平日の夕方と土曜の午後で、通る人の年齢層がどう入れ替わるか
- 人が「歩いている」のか「急いでいる」のか。速度が違えば看板は目に入らない
- どこで人が立ち止まるのか。信号、バス停、ベンチの位置関係
- 隣接するテナントが実際に動いているか。看板は出ていても営業していない区画がある
- 空き区画がどれだけあるか。空きが続くエリアには必ず理由がある
これらは統計には出てきませんし、AIに聞いても出てきません。その時間に、その場所に実際に立った人だけが持っている情報です。
プラスバリューがご提案するエリアは、すべて実際に現地を歩いて調査したエリアです。
地図と統計だけで机上で選んだエリアを、そのままお出しすることはありません。候補を絞るところまではデータで行い、最後は必ず現地に行って、時間帯を変えて歩いて確かめます。情報が誰にでも手に入る時代になったからこそ、差がつくのは現地の情報だけになりました。私たちが横浜に拠点を置き、エリア提案という仕事を統計の分析ではなく現地調査を軸に組み立てているのは、そのためです。詳しくはサービス詳細をご覧ください。料金体系は料金プランにまとめています。
まとめ:神奈川では「駅」ではなく「商圏」で考える
この記事の内容を整理します。
- 神奈川は東京とほぼ同じ面積に、駅が半分以下(898駅に対し416駅)しかない
- 1つの駅が商圏を単独で抱えるため、「隣の駅で」という代替が効かない
- 駅を固定すると候補がゼロになり、条件の悪い1件を断れなくなる
- 駅前を離れると来店手段が車に変わり、駐車場や右折進入が効いてくる
- 「右折で入れるか」はポータルサイトでは検索できない
- 徒歩分数は坂を考慮していない。同じ徒歩7分でも来店確率は変わる
- 候補は複数の立地タイプで持ち、最後は必ず自分の足で歩く
神奈川で出店するということは、都内よりも現地を見た人と見ていない人の差が大きく出るということでもあります。地図と数字だけでは埋まらない部分が、はっきり存在します。
「神奈川のどのあたりに出すべきか、まだ決まっていない」という段階でのご相談を歓迎しています。お問い合わせフォームから承っています。
よくある質問
Q1. 神奈川県内であれば、どのエリアでも対応してもらえますか?
横浜市・川崎市を中心に、神奈川県内および周辺エリアでご相談を承っています。ご提案にあたっては実際に現地を調査するため、対応できる範囲についてはお問い合わせの際にご確認ください。
Q2. 車での来店を前提とした店舗でも相談できますか?
できます。むしろ神奈川では、車での来店を前提とした立地の検討が重要になる場面が多くあります。その場合は、駅からの距離ではなく、駐車場の確保、幹線道路からの進入のしやすさ、車で10〜15分圏の人口構成といった観点で候補を組み立てます。
Q3. すでに横浜市内で候補の駅を決めています。それでも相談する意味はありますか?
あります。駅がすでに決まっている場合でも、その駅を選んだ理由が顧客像から説明できるかどうかの確認、同じ商圏内で駅前以外の候補があるかどうかの検討、候補物件が実際に適切かどうかの精査といった形でお手伝いできます。エリアが決まっていることは、ご相談の妨げにはなりません。
この記事を書いた人
藤本 千尋
プラスバリュー株式会社 代表取締役社長
慶應義塾大学卒業。在学中に経験したマルタ島とブリスベンへの留学を活かして、中東系航空会社に入社し、現地に移住。ファーストクラス専任客室乗務員として約6年間勤務していました。多国籍のクルーと生活も仕事もともにするなかで、最優秀客室乗務員賞も受賞しました。
帰国後に選んだのは、全くの別業界である不動産業界。日総ビルディング株式会社(現・Space Direction株式会社)に入社し、事業用物件のリーシング営業として多くの物件を満室稼働に導きました。貸主側の立場で賃料の改定や物件の企画にも携わり、賃料や契約条件がどのような理屈で決まるのかを、貸す側の内側から見てきました。
現在は横浜市西区を拠点に、東京・神奈川エリアで店舗・オフィスの出店コンサルティングを行っています。商品特性とターゲット顧客のヒアリングから始めるエリア提案が中心。出店エリアの選定、事業リスクを考慮した物件分析、賃貸条件に関する助言まで伴走します。ご提案するエリアは、いずれも実際に現地を歩いて調査したエリアです。コンセプトは「あなたのための店舗開発部」。物件を探す前の「どこに出すべきか」から支えます。(物件の紹介・仲介は提携不動産仲介業者が実施します)